ねむい

睡魔と戦うのに忙しいので労働は別な人に任せたい

『それでもやっぱり恋をする。』 著: 倉田嘘 感想

真心が溢れた本

私は、この本は「真心」で溢れた本だと思います。

『それでもやっぱり恋をする。』は、5つの短編から構成されています。
特筆すべきは、どの話でも主人公や相手にピンチが訪れる事。


例えば「BBS」という話では、水泳部の幼馴染に恋をする女子高生のお話だ。
主人公、美佳は悦子とは小学生の頃からの付き合いで、泳ぐことの楽しさを教えてもらった。
昔は泳ぐことを楽しみ「大切なのは楽しく泳ぐことだよ」と説く悦子だったが、高校にスポーツ推薦で入ってから雰囲気が変わってしまった。
協調性が無く刺々しく、常にイライラしたような態度を取る。
当然、周りの部活仲間は悦子の事を良く思わず裏掲示板で彼女に誹謗中傷の言葉を浴びせかける。

部活仲間は美佳にも裏BBSを教えるが書き込むことに躊躇う美佳。
しかし、ある日悦子から苛立ちをぶつけられた事に耐えかね、美佳はBBSへ悪口を書き込んでしまう。
すると、翌日から部活仲間は悦子へイジメを開始する。自分の書き込みがもたらした結果に慄く美佳。
さらに携帯を落とし、自分の掲示板への書き込みを悦子に見られてしまう。
気まずさと罪悪感から部活を休む美佳だったが、悦子が直接携帯を返しに来る。
携帯を返しながら「悲しかった」と呟く悦子に、「自分のするべきことはこんな事じゃなかった」と強く後悔し美佳は悦子を追いかける。

追いついた美佳は、今の悦子が泳ぐ楽しさを忘れている事を告げる。
やや驚いた顔を見せるもすぐにそっぽを向いて歩き去ってしまう悦子。

その日の部活終わりに悦子から謝罪される美佳。
悦子は裏BBSの存在は以前から知っていたが、自分が早くなるためには無視した方が得だと考えていた。
しかし、美佳の書き込みだけはどうして無視できなかった。なぜなら美佳の言葉だから。
美佳から直接面と向かって言われた事で大切な事を忘れていた事に気づく悦子。

そして一緒にプールに入る二人。美佳はまた一緒に悦子と泳げた事が嬉しくて涙を流す。



この話では、幼馴染が悦子が泳ぐことの楽しさを教えてくれた悦子が、それを忘れ部活仲間からイジメを受けるピンチに陥る。
美佳は悦子に嫌われる事も覚悟で今の悦子が昔の悦子と違う事を伝え、自身の現状に気づいた悦子と仲直りする。

自分もキツく当たられたのに悦子を見捨てず必死に幼馴染を救おうとする美佳に「真心」を感じます。
この話で重要なのは、「美佳は悦子の事が好き」という風な描写がなく、ただ単に「水泳の楽しさを教えてくれた幼馴染を心配する女の子」として描かれる事ですね。
好きだからどんな無茶をしてもいい、好きだから助けて当たり前、ではなく恋愛感情ではないけどもほっとけない。
振り向いて欲しいとかではなく、もう一度楽しく泳いで欲しい。
その一心で彼女に声を掛けようとする美佳の純情に心打たれます。



他の短編も、相手を思うからこそぶつかっていく、喧嘩を乗り越えていく展開が秀逸です。


人は繋がる

そして、この本の一番の良さは一番最後の短編「intermission」にて、他4編のキャラが集まる展開です。
4つ目の短編「BLOG」にて主人公たちが作ったブログへの書き込みをきっかけに集まることになった各カップル達。
お話は短く絡みもほとんどありませんが、「"女の子が好きな女の子"同士が集まる」という展開が素晴らしいです。
そして、上記で書いた悦子と美佳もここで正式なカップルになります!!ここが良い!!!
しかも2人が同じ悩み方で別々のルートで相談に来るという運命的出会いをね!!!



おわりに

倉田嘘先生の本は『百合男子』しか知らなかったため読んできませんでしたが、とても素晴らしく素敵で心が安らぐ本を描かれる方だとこの本で知る事ができました。
『リンケージ』も読みます。

リンケージ 完全版 (百合姫コミックス)

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