ねむい

睡魔と戦うのに忙しいので労働は別な人に任せたい

小説版『天気の子』感想

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※ ネタバレあります

角川文庫版『天気の子』を読んだ。面白かった。
途中までは極めてありきたりな展開のようで、穂高に甘々な世界観がしっくり来なかった。
だが、「終章 大丈夫」で変わった。
陽菜を取り戻しても物語はめでたしめでたしでは終わらず、世界は雨が降り続き東京の一部は水没した。
つまり東京が水没した世界を描くSF作品の面を持ち合わせた。
環状線ではなくなった山手線や水面から頭を覗かせる高層ビルの描写は、現実とは違う新しい東京の姿を映し出してくれた。
東京水没という展開によって、私はその世界観に広がりを感じたし、この『天気の子』という作品はその世界観のエピソードゼロのようなポジションだと感じている。
水没した東京を舞台に既存の物語が数作品出ており、この作品は東京水没の原因を解き明かす前日譚のように感じられた。
そう思うと、まだまだ物語が続いていきそうなとてもワクワクした読後感だった。

他にも面白さを感じたものがある。
それは監督自身による"あとがき"と主題歌を担当したRAD WINPSの野田洋二郎さんの"解説"だ。
"あとがき"にて、この作品はフィクションでしか書けないもの新海誠でしか書けないものを新海誠自身がワクワクしながら全力投球で書いた、という事が書かれている。
君の名は。』のヒットを受けてヒットを狙って作るのではなく、逆に自身が楽しめるものを全力で作ったというのが嬉しいし、穂高の暴走とも言える行動は新海監督のワクワクの熱意によるものだったのかも、と腑に落ちた。おかげで穂高に対する甘々な展開に納得がいった。
"解説"では、野田さんと新海監督の人柄の良さを感じた。小説版なので音楽は関係ないかも知れないと思ったが野田さんが『天気の子』に与えた影響はとても大きかった。

私は新海誠作品が好きだ。そんな新海作品が『君の名は。』によって大ヒットし世間の注目を浴びた。
そうなるとファンとしては今までとは作風が変わってしまうのが怖いもの。
『天気の子』もそんな視点で読み進めていた。だからこそ、クライマックスがSFのような展開になったのが嬉しかった。
そして"あとがき"を読んで、新海監督自身が楽しみながら作品を作った事も知れて嬉しかった。
好きな作家が楽しんで作品を作ることはファンにとっても喜びである。
小説版を読んで良かった。あとがきと解説が無ければ感想記事を書こうとも思わなかった。
監督に小説版を書くよう促してくれた『君の名は。』製作委員会にも感謝。